鳥羽市安楽島町の伊射波神社で行われた「御遷座」の撮影担当を務めさせていただきました。御遷座は、伊勢神宮に式年遷宮があるように、20年に一度だけ行われる貴重な神事です。今回は11月2日(日)が本番の「神殿清祓祭/川原清祓祭/本殿御遷座」、翌3日(月・祝)が御遷座後の「本殿御遷座奉祝祭と餅まき」でした。
「20年に一度」と聞くだけで背筋が伸びます。地域の歴史の一部を撮らせていただくという責任と、撮影者としての緊張と期待が混ざり合ったまま、初日を迎えました。
【1日目】神殿清祓祭/川原清祓祭/本殿御遷座
曇り空と森の暗さとどう向き合うか


伊射波神社は森の奥に位置し、晴れていても光が入りにくい場所です。まして初日は雲が厚く、午後からはさらに暗さが増していきました。撮影は17時まで続き、最後の方は肉眼でも薄暗さを感じるほどでした。


ただ、フラッシュの光で神事を邪魔したくないという思いがあり、自然光のみで撮影を進めることにしました。ISO感度を上げ、シャッタースピードを調整しながら、「ピントさえ合っていれば後からなんとかできる」と自分に言い聞かせるようにシャッターを切っていきました。
最後の集合写真だけはさすがに不安が大きく、高感度で撮影。その後のLightroom編集でAIノイズ除去を施し、ようやく「なんとか形になった」と胸をなでおろしました。現代の編集技術に支えられた瞬間でした。
宮司さんと宝物を海沿いへ運ぶ氏子さんたち


川原清祓祭では、山道を宮司さんを先頭に氏子さんたちが、一つひとつ宝物を大切に抱えて歩いていきます。その光景は本当に心に残りました。
神事をただ撮影するのではなく、地域の人たちが代々守り続けてきた営みに触れさせてもらっているのだと感じ、ファインダー越しにその姿へ吸い込まれるような、不思議な感覚がありました。
【2日目】本殿御遷座奉祝祭/餅まき
光が味方に。色鮮やかな舞と装束


2日目は曇りのち晴れ。木漏れ日がゆっくりと差し込み、伊射波神社の緑が鮮やかに浮かび上がっていました。
この光が、舞姫の衣装や宮司さん、氏子さんの装束をより美しく引き立ててくれました。色の深み、布の質感、舞う姿の所作。光が変わるだけで、写真の世界がこんなにも変わるのだと改めて感じました。


最後の餅まきでは、子どもも大人も笑顔いっぱいで、撮影しているこちらまで自然と頬が緩むような時間でした。地域の温かさがそのまま写真に写り込んでいくようでした。
約1,400枚の写真の先にある “編集”という仕事/そして一部印刷へ


2日間で撮影した写真は、合計約1,400枚。神事中は撮り逃しのできない場面が多く、ついシャッター数も増えていきます。撮影後はすぐに編集に入り、暗所での撮影が多かったためAIノイズ除去の力も借りながら、一枚一枚確認して整えていきました。
編集を終えたデータはUSBメモリーにまとめ、クラウドアルバムでも共有できるように準備しました。依頼主さんからのご希望で、集合写真には文字入れ加工を施し、印刷して納品しています。
20年後も、伊射波神社の御遷座が続きますように


今回の御遷座撮影で強く感じたのは、「地域の祈りは、形を変えながら受け継がれていく」ということでした。担い手の世代が変わり、時代が変わっても、それでも続けていこうと願う人の想いがあります。
20年後、同じ場所にまた神事が訪れるとき、地域はどんな姿になっているのでしょう。今回撮影させていただいた写真は、未来に向けた記録として大切に保管されていきます。大変貴重な経験をさせていただいた、撮影現場でした。



